メガネの備忘録

文豪の人間関係にときめいたり、男色文化を調べたり、古典の美少年を探したりまったりワーク。あくまで素人が備忘録で運用してるブログなので、独断と偏見に満ちており、読んだ人と解釈などが異なると責任持てませんので、転載はご遠慮ください

井原西鶴『男色大鑑―武士編―』萌え話ベスト3

f:id:todoroki_megane:20210120084115p:plain好色一代男』、『日本永大蔵』…。国語か日本史の授業で聞いたことはありませんか? どちらも、江戸時代の浮世草子(今でいう大衆文学)です。
作者は、井原西鶴。『好色一代男』は、一人の男性の好色で自由気ままな人生を活写する内容が、大人気を博し、西鶴の処女作にして代表作になりました。

男女の色恋をたくさん描いた西鶴ですが、男女の恋愛それ以上に、熱中して書いたのが男同士の恋愛を描いた『男色大鑑』。

好色一代男』など、男女の恋愛では苛烈な性描写が多いですが、男同士の恋愛を書いた『男色大鑑』では、匂わせはありつつ、けれど直接的な描写はなく、むしろ精神的つながりを克明に描いたブロマンス調。
BLの性描写が苦手というあなたでも大丈夫! むしろ、精神的なつながりによって描かれる『男色大鑑』で様々な愛の形を目撃するでしょう!

ちなみに、『男色大鑑』は1970年代に現代語訳が出てから、しばらく読めない状態が続いていたのですが、2016年に角川書店からコミカライズが始まったのをきっかけに再びブームが起き、2018年には図書出版より、美麗表紙イラスト・挿絵付きで、とても分かりやすい『男色大鑑』を研究するエキスパートの手によって、現代語訳と解説付きで復刊しました!

前置きが長くなりましたが、今回は、『全訳 男色大鑑―武士編―』から古の腐女子が萌えた(選ぶ言葉が古い…)お話ベスト3を紹介します!

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(引用:図書出版文学通信サイトより
えー前提として、江戸時代の衆道(男同士の同性愛)は、念者(兄分・攻)と若衆(弟分・受)の念友カップル)で成立します。一部例外はありますが、下剋上はありません。
また、この記事を書いているメガネさんは古の腐女子耽美派)なので、悲恋が好みです。それを踏まえてのベスト3であることをあらかじめご了承ください。
また、キャッチ文章は『全訳 男色大鑑武士編/染谷 智幸 (編集), 畑中 千晶 (編集)/文学通信』より引用しています。

「夢路の月代」(巻2の3)

【キャッチ】
ぬしの唾は恋の味、すくいあげて飲みほし申す(p.92)

【おすすめポイント】
若衆が美少年過ぎて、吐いた唾さえ愛しいと、唾がはかれた川の水を飲んでしまう念者に、ちょっとびっくりするのですが、その後、寒い冬の最中、家まで若衆を送っていってポイントをあげて、これからハッピーなライフが始まるのかと思わせつつ、若衆が念者の家を訪ねていったら、そんな展開が待っているなんて! という、悲恋モノなんですが、若衆には新しい念者ができますし、夢の中で再会し、幸せになってほしい的なこともいわれますし、当初想定したカップルではないんですが、この話には未来があるということで、萌えました。夢の中の出来事が現実に反映されているのもファンタジー好きにはポイント高いです。

「傘持つても濡るる身」(巻2の2)

【キャッチ】
俺もいつかは兄分を持ち、その方を可愛がりたい(p.81)

【おすすめポイント】
自分の美しさを武器に殿に近づき小姓におさまる若衆ですが、そこで殿以外の念者と出会いいつしか恋仲に。

しかし、若衆を激愛していた殿の怒りに触れ、両腕を切り落とされて絶命する若衆(しかも腕一本切られてさらに挑発すらやってのける)。
残された念者は、若衆の不義密告を殿にした隠密の両腕を斬って殺し、若衆のお墓の前で、自害するのですが、その時の腹の切り方が、若衆の家の家紋というこだわりっぷり。

仇討ち、若衆の愛、念者の想い、殿の執念とエンターテイメント性が高く、短いお話ですが、きちんと最後まで締まったいい終わり方だと思います。

「詠めつづけし老木の花の頃」(巻4の4)

【キャッチ】
シワシワな君に恋してる、君は永遠の若衆だから(p.198)

【おすすめポイント】
武士編なので、結構死にネタが多く、主人公たちが幸せそうならいいんですけど、死にネタは読み続けるとつらい。本当につらい。

で、最後にご紹介するのは、若衆に横恋慕した相手を討ち果たし、脱藩の末、ひと目を偲んで長年暮らし、年老いた念友のお話です。
衆道関係は若衆が元服したら終わるはずなのにこの二人は終わらず、つつましく念友であり続けるところがいいなぁと思います。
実はこの二人、女嫌いが徹底しているところも味噌です。

年をとっても、最期まで一緒にいられる愛の形が一番好きなので、この話をベスト3の最後に選ばせていただきました。

いかがでしたか?
地味な古典として、時代に忘れ去られかけていたものでしたが、世の中のBLブームに救われる形で、再発見された『男色大鑑』。
紹介した作品以外にも、名作はたくさんありますし、読む人によって、心に刺さるお話が変わっていくと思うので、もし、江戸時代BLに興味がある方は読んでみてください。

ちなみに、2019年8月には『男色大鑑―歌舞伎若衆編―』が発行されるとか。武士同士とはまた違った、町人の恋模様、楽しみですね。

参考サイト https://book.asahi.com/article/11959797

https://bungaku-report.com/blog/2018/07/post-235.html

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%94%B7%E8%89%B2%E5%A4%A7%E9%91%91