メガネの備忘録

文豪の人間関係にときめいたり、男色文化を調べたり、古典の美少年を探したりまったりワーク。あくまで素人が備忘録で運用してるブログなので、独断と偏見に満ちており、読んだ人と解釈などが異なると責任持てませんので、転載はご遠慮ください

宮沢賢治の見方が変わる? 父親、恋人、心友からみる宮沢賢治を紹介する本ランキング

f:id:todoroki_megane:20210120083817j:plain こんにちは、自分のカムパネルラはどこにいるんだろうかなどという夢みたいなことをアラフォーになっても考えている、メガネです。 さて、みなさんは、宮沢賢治にどんなイメージを持っていますか? 農村に尽くした聖人? 生徒思いの先生? 自分の写真を撮るのにベートーベンの真似をしちゃうおちゃめな人? 宗教に熱心で、単身東京に行き国柱会に入信した人? 石が大好きで地質学が得意な人? 調べれば様々な姿が浮かび上がる、宮沢賢治という人について、今日は、彼の父親、恋人(だったかもしれない)、心友の観点から宮沢賢治がどういう人か紹介している本を紹介します!

父の視点から 『銀河鉄道の父/門井慶喜/講談社

【あらすじ】 明治29年(1896年)、岩手県花巻に生まれた宮沢賢治は、昭和8年(1933年)に亡くなるまで、主に東京と花巻を行き来しながら多数の詩や童話を創作した。 賢治の生家は祖父の代から富裕な質屋であり、長男である彼は本来なら家を継ぐ立場だが、賢治は学問の道を進み、後には教師や技師として地元に貢献しながら、創作に情熱を注ぎ続けた。 地元の名士であり、熱心な浄土真宗信者でもあった賢治の父・政次郎は、このユニークな息子をいかに育て上げたのか。 父の信念とは異なる信仰への目覚めや最愛の妹トシとの死別など、決して長くはないが紆余曲折に満ちた宮沢賢治の生涯を、父・政次郎の視点から描く、気鋭作家の意欲作。 (講談社BOOK倶楽部

はい。宮沢賢治がドラ息子です。とてもドラ息子です。 (悪い意味ではない) そんな賢治の夢や生き方に反発し、指導しようとする厳格な父の、けれど最終的にそれらの活動を支えてくれる優しい側面が描かれた作品です。 お父さんがすごすぎて、賢治が屈折したような感じもあるのですが、生き足掻く息子を思う父の愛の深さといいますか、このお父さんだから、傑出した息子を受け止めたのかなとしみじみ思ってしまう作品です。 なお、直木賞受賞作品です。すごい!

恋人ヤスの視点から 『新版 宮澤賢治 愛のうた/澤口たまみ/夕書房』

【あらすじ】 賢治には、恋人がいたーー! 知られざるラブ・ストーリーを作品と証言から大胆に読み解く、異色の文芸エッセイ。

生涯独身で、その恋心は妹や親友に向けられたと解釈されることの多い聖人・宮澤賢治。しかし彼には相思相愛の女性がいました。 お互い結婚を考えながらも叶うことのなかった悲しい恋。本書はその顛末を、『春と修羅』をはじめとする詩の数々に封じこめられた切実な恋心を読み解きながら、明らかにしていきます。

誰もが知る詩「永訣の朝」や童話「やまなし」「銀河鉄道の夜」などに隠された苦しい恋の片鱗に気づくとき、これまでとは違う「人間・宮澤賢治」が、生き生きと立ち現れてきます。

岩手の自然と風土を知り尽くすエッセイストが、約100年の時を越えて開封する、胸がしめつけられるほど切なく美しい、愛の物語です。 (夕書房サイトより

宮沢賢治に関わった女性は何人かいるのですが、中でも「大畠ヤス」さんは、相思相愛で、当時としてはかなり大胆な密会などしていたよう。しかし、結婚をヤスさんの親に反対され、また彼女の病気(結核)が原因で、離れ離れになり、結ばれることはありませんでした。 今まで、妹・トシのために紡がれていたとされる物語も、もしかしたらヤスさんとの思いをちりばめて、などという深読みができます。 女性と付き合いがないという印象が強かった宮沢賢治のイメージを180度覆す意欲作です。

心友、保阪嘉内の視点から 『心友宮沢賢治と保阪嘉内/大明 敦 (編集)/山梨ふるさと文庫』

【あらすじ】 韮崎市出身の保阪嘉内は甲府中学校卒業後、盛岡高等農学校に遊学。風変わりな友人宮沢賢治と知り合う。卒業後、二人は離れ離れになるが二人の友情はずっと続く。 (amazonより

菅原千恵子さんの『宮沢賢治の青春―“ただ一人の友”保阪嘉内をめぐって』でも、斉藤なずな「恋文」でもよかったんですが(NHKEテレ番組は賛否両論でしたね)、いろいろ読んだ中で、私的に賢治と嘉内について一番しっくりくるのが上記の本でした。 トルストイに憧れて盛岡高等農学校に進学した、保阪嘉内は、寮で宮沢賢治他、志を同じくする友人に出会い、「人間のもだえ」という劇を学芸会で披露したり、「アザリア」というガリ版の同人誌を仲間と一緒に作ったり、岩手山でお互い将来について語り合ったり(俗に「銀河の誓い」と呼ばれる)、交友を深めますが、「アザリア5号」に発表した内容が、教師に問題視され退学処分に。 お互いを心友としていた二人だったので、嘉内の退学はかなり賢治にとってショックだったらしく、その後、猛烈な手紙を賢治は嘉内に向けて、書き続け、だんだんそれは宗教色を帯びるようになります。受け取った嘉内はどんな気持ちだったでしょうね。 また、有名な「私が友保阪嘉内、私が友保阪嘉内、我を棄てるな」の手紙の一文。単純に「自分を見捨てるな」という意味で読んでいたのですが、「私」と「我」を使い分けているので、「我を棄てるな=(誓い合ったハッピィキングダムを作り上げるという思想)を棄てるな」ではないかという説もあります(思いついた方すごいですね)。 ともあれ、宗教的に加熱する賢治と嘉内の間に深い溝ができ、上野の帝国図書館で久々に再開した二人は決別します。そのあたりは、賢治の「図書館幻想」「われはダルケを名乗れるものと」「蒼怜と純黒」に反映されています。 二人が決別後、やり取りがあったかどうかについては、書簡などが失われ、記録が残っていないのですが、二人の友情が続いていた、とするこの本が好きです。はい。 なお、嘉内は銀河鉄道の夜のカムパネルラのモデルの一人と考えられ、また、学生時代一緒に「アザリア」を作っていた河本緑石(教師をしていて、賢治が死ぬ直前に、溺れる生徒を助けるために溺死した)なども、カムパネルラのモデルとして考えられています。

友に影響を受けたり、宗教にまい進する賢治を知るのにおすすめです。

(嘉内さんの話が長くなったのは、メガネが私的にアザリア関連が好きだからです☆)