メガネの備忘録

文豪の人間関係にときめいたり、男色文化を調べたり、古典の美少年を探したりまったりワーク。あくまで素人が備忘録で運用してるブログなので、独断と偏見に満ちており、読んだ人と解釈などが異なると責任持てませんので、転載はご遠慮ください

【お能に出てくる美少年を知るシリーズ第17回】「粉川寺」

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こんにちは、メガネです。久しぶりのお能に出てくる美少年シリーズは、今は廃曲となっている「粉川寺」の紹介です
お寺の稚児、都人との一夜の契りと、男色能の側面もあります。

【あらすじ】

都人一行が熊野詣の途中、宿を求めて紀州の粉川寺に立ち寄ります。
おりしもその日は寺の大法があるため、宿泊を拒まれてしまいます。
困った都人一行。そこに寺の稚児・梅夜叉が隠れて手紙を渡し、
稚児の父を名乗って宿坊に訪れるよう助言します。
稚児のおかげで、寺に泊まれることになった一行は、
途中、梅夜叉の兄の話で正体がばれるかという危機を乗り越え、
都人と梅夜叉は一夜を共にします。
都人は次の日熊野に旅立ちますが、その間、梅夜叉は嘘を言って、
都人を宿泊させ、寺の大法を破ったため、折檻の危機に。
都人は再び粉川寺を訪れ、梅夜叉に面会を申し入れ、
自らの身分を明かし、梅夜叉の窮地を救い、
都人と梅夜叉は共に粉川寺から旅立っていきました。

 

【一目ぼれからはじまった恋では…?】

寺で年に2度旅人を泊めない日に、運悪くやってきた都人。
その窮地を救ったのはお寺の稚児(多分美少年)でした。
稚児と都人はなんとその夜一夜を共にしています。
稚児のひとめぼれだったのでしょうか。寺の禁忌を冒してまで、
都人を招き入れるとは…。
都人が旅立った後、嘘をついたことがばれて窮地に陥る稚児を救ったのは、
熊野帰りの都人。
姫を助ける王子さまか! と思わず突っ込みを入れたくなりました。
二人はそのまま寺を去り、都に戻ったと思われます。ハッピーエンド大団円です。
なお、この曲は現在上演されていないらしく、幻の男色能かもしれません。
見目麗しい稚児(子方が演じるそうです)と、都人の舞、見てみたかったですね。

 

なお、下記のサイトを記事の参考・引用に、使わせていただきました。ありがとうございます。
「廃曲<粉川寺>考――結末部の異文をめぐって――」都 築則https://core.ac.uk/download/pdf/144434963.pdf
「能謡同名異曲考(二):付、大和田健樹旧蔵番外謡本について」西野春雄

https://hosei.repo.nii.ac.jp/index.php?action=pages_view_main&active_action=repository_action_common_download&item_id=20410&item_no=1&attribute_id=22&file_no=1&page_id=13&block_id=83

 

なお、ネットに謡曲がおちていたのでメモ代わりに載せておきます。

 

ワキ「これは紀州粉川寺の住僧にて候。偖も当寺に於て。年に二度人を泊めぬ夜の候。一夜が今夜に相当りて候ふ程に。此由を委しく申し付けばやと存じ候。いかに能力。汝存知の如く当寺に於て年に二夜旅人を泊めぬ夜の候。一夜が今宵に相当つて候ふ程に。かまひて人を寺中に泊め候ふな。其分心得候へ。
シテ次第「その暁を松風や。/\。高野の寺に参らん。
詞「かやうに候ふ者は都の者にて候。さても我多年の望候ふて高野山に参り候。それより粉川へも参らばやと存じ候。
サシ「都出でて今日瓶の原と詠めける。木津のこつ川はこれかとよ。川風あまり身にしめば。我にも衣を鹿背山に。思ひつゞけて行く程に。
シテ「さて奈良坂に着きしかば。ここは法華般若寺。
立衆「大聖文殊を拝み申せば。罪障はつき雲井坂。左はいづく東大寺。三国無双の大伽藍。まのあたりに拝む有難さよ。
下歌「月の三笠の山の端は。今ぞ知らるゝ春日野の。鹿の音になどか附けざらん。
上歌「春ならば。花とやいはん葛城の。/\。よそに見えたる峰の雲。かゝる旅こそ宇野と聞け。なほ行く先はあふかの里。このあたりぞと夕煙。立ち添ふ林を見渡せば。かせいちの森やかまやどの。森とも早く知られけり。/\。
詞「急ぎ候ふ程に。粉川の寺に着きて候。やがて御堂へ参らうずるにて候。いかに誰かある。
トモ「御前に候。シテ「早日の暮れて候ふ程に。寺中に宿を借りて来り候へ。
トモ「畏つて候。いかに案内申し候。
狂言「誰にてわたり候ふぞ。
トモ「是は旅の者にて候ふが。一夜の宿を借り申したく候。
狂言「此寺の習にて。年に二夜旅人に御宿参らせぬ大法にて候。其一夜が今夜に相当りて候ふ間。御宿は叶ひ候ふまじ。
トモ「寺中へ御宿の事を尋ねて候へば。当寺の大法にて年に二夜旅人に御宿参らせず候。其一夜が今夜に相当りて候ふ程に。何方にも御宿は叶ふまじき由申し候。
シテ「其義ならば苦しからず候。今夜は月も面白く候ふ間。本堂の前の白砂にて一夜を明かさうずるにて候。皆々近うよりて物語り候へ。
子「あら痛はしや旅人の。未だ御宿もなげに候。是御覧候へ。
トモ「いかに申し候。只今幼き人の御通り候ふが。御文を落し申されて候。
シテ「何と少人の文を落し給ひたると申すか。殊に当寺は児観音にて候ふ程に。若し御利生の事もや候ふらん。先披いて見うずるにて候。未だ御目にかかりたる事は候はねども。旅に行き暮れ疲れ給ひたる御有様。余りに御痛はしく存じ一筆申し参らせ候。みづからが古郷は近江の国高島と申し候。其方よりと仰せ候ひて御尋ね候はゞ。御坊も対面あるべし。みづからも左様にあひしらひ申すべし。我が名は梅夜叉と申し候。返す/\も御痛はしさの余りにかやうに思ひよりて候。
地「やさしの人の心や。いつ馴れぬ花の姿。色あらはれて此宿の。かり言ぞ嬉しき。類なの人の心や。
シテ詞「さて何とし候ふべき。
トモ「其御事にて候。只今御越なくは。梅夜叉御の御志も徒になり候ふ間。仮名字にて御出あれかしと存じ候。シテ「さらば其由申し候へ。
トモ「畏つて候。いかに案内申し候。高島殿の御宿坊はいづくにて候ふぞ。狂言「これにて候。
トモ「高島殿の只今御登山にて候。
狂言「其由申さうずるにて候。いかに申上げ候。高島殿御登山にて候。
ワキ「何と高島殿の御登山と候ふや。あら思ひよらずや。此方へと申し候へ。
狂言「畏つて候。此方へ御出で候へ。
トモ「心得申し候。いかに申し候。其旨申して候へば。あれに御通あれとの御事にて候。
シテ「さらばかう参らうずるにて候。ワキ「御登山めでたう候。
シテ「さん候とくにも登山致し御礼申すべきを。公私隙なきについて遅なはり申し候。殊に幼き者を参らせ置き。万御むつかしき事恐れ入り存じ候。
ワキ「委細承り候。只今の御登山祝着申し候。いかに梅夜叉殿此方へ御出で候へ。殊の外の成人にて候。
シテ「誠に殊の外成人仕りて候。
ワキ「又梅夜叉殿御舎兄は比叡山に御童形にて候ふか。御出家を遂げらるゝとも申す。又御下あつて家を御相続とも申し候ふが。何れか一定にて候ふぞ。
シテ「さん候いでそれは。
子「あら心なの仰せやな。暫し休ませ申すべきに。
地「長物語よしぞなき。明けなば帰る故郷の。遠旅も痛はしやと。みづから酌を取り御客人に勧むる。
シテ「げにや情は有明の。
地「月の都に住み馴れて。人こそ多けれど。かゝるやさしき事はなし。京に田舎あり。田舎にもまた都人の。心ざまはあるべしや。道すがらの思出。げに忘れがたの風情や。
トモ詞「はや鳥が歌ひて候。
シテ詞「何とはや夜の明方に候ふとや。さらば御暇申さうずるにて候。
ワキ「暫く。たま/\の御登山にて候ふ程に。御逗留候ひて御慰み候へ。
シテ「御意にて候ふ程に逗留申したく候へども。路次に人と堅く契約申したる事候ふ間。先此度は罷り帰り。又近日罷り下り御礼申すべく候。
ワキ「さては御立なうては叶ひ候ふまじきか。あら是非もなや候。重ねて御登山を待ち申さうずるにて候。いかに梅夜叉殿。はや御帰り候御門送り候へ。
子「心得申し候。
シテ「いかに申し候。偖も今夜は草の枕に臥すべく候ふ処に。御憐により一夜を明かさせ給ふ事。生々世々忘れ申すまじく候。必ず十日の内には罷り下り。今夜の御礼申すべし。さるにても昨日の暮の隠し文。
地「思はぬ方に節竹の。一夜の契夢うつゝ。粉川の寺の鐘の声鳥の音。あら忘れがたの面影や。
シテ詞「いかに誰かある。某が参りたる由申し候へ。
トモ「畏つて候。いかに御坊へ案内申し候。
狂言「誰にてわたり候ふぞ。
トモ「高島殿の御登山にて候。
ヲカシ「いかに申上げ候。又高島殿御登山にて候。
ワキ「此方へ入れ申し候へ。あらめでたや御下にて候。
シテ「先度の御礼の為参りて候。偖幼き人は何処に御座候ふぞ。
ワキ「これに渡り候。
シテ「情は人の為ならず。
地「よしなき人に馴れ初めて。出でし都も。忍ばれぬ程になりにけり。
ワキ詞「重ねて御登山祝着申し候。以前は仮名字にて御出の由承り候。此度は誠の御名字を御名乗り候へ。
シテ「仮名字につきて面白き曲舞の候ふ程に諷ひ。その時名宣り候ふべし。
サシ「吉野山の花見の行幸には。妹背の中を離れ。地「須磨明石の月に休らふとても。三年の日数を徒らに過し。その後筑紫筑前に下り。朝倉の里と云ふ処に。暫く御座をなし給ふ。
クセ「茆茨根を切らず。さいてん削らずして。黒木に作る宮柱。立つ木の枝もおのづから。すなほになれば君が代に。住む事やすき例とて。そのまゝ住ませ給ひしかば。それより名づけつゝ。木の丸殿と号すなり。世につゝむべき事あり。たゞ人の如く天皇や。豊の明の影凄く。忍びて住ませ給ひしに。参る人は必ず。その名を名宣り帰るべしと。綸言の趣。和歌の浦波朝倉や。
シテ「木の丸殿に我が居れば。
地「名宣をしつゝ行くは誰が子ぞ。かやうに詠じ給ひしかば。その後参る人は。言問はず名宣りけり。げにやかしこき世語の。遠き喩も恐あり。我等もいざや名宣りつゝ。名宣の為と木綿附の。とりあへぬ御酒盛。いざ諷ひ奏で遊ばん。
ロンギ地「げに面白やさこそげに。都人の舞の袖。ゆかしやと囃せば。
シテ「たをやかなりし舞の手も。今は老木の花ぞ無き。御覧あれや方々。
地「若木によらぬ舞の袖。老木の花は珍しや。
シテ「さらば思出に。幼き人ともろともに。相舞ならば舞はうよ。
地「げに相舞は殊更。互の心花染の。
シテ「恐ある御袖を。引き立つる袂も。
地「引かるゝ袖もたをやかに。豊なる君が代なり。諷ひ奏で舞人の。さもめでたくぞ覚ゆる。
シテ「いつか紀の路の山高み。地「雲こそつづけ旅の空。舞「。
ワキ詞「なう/\此度は実名を早く御名宣り候へ。
シテ「今は何をかつゝむべき。これこそ杉村弾正の少弼候よ。
ワキ「あらおびたゝしの大人や候。
シテ「偖も幼き人の御事を。我が君へ申し上げ候へば。急ぎ御供仕れとの御事により。只今御迎に参りて候。
ワキ「さては幼き人只今が名残にて候ふよ。
シテ「中々の事。忘られぬ時忍べとや浜千鳥。
地「ゆくへも知らぬ。
シテ「人を尋ねて。地「月の夕暮花の曙。事によせ折々ごとに。忘るまじや忘らるまじの。あらまし残す。有りし情は露の玉章。言葉も尽きせぬ名残かな。