メガネの備忘録

文豪の人間関係にときめいたり、男色文化を調べたり、古典の美少年を探したりまったりワーク。あくまで素人が備忘録で運用してるブログなので、独断と偏見に満ちており、読んだ人と解釈などが異なると責任持てませんので、転載はご遠慮ください

2024年5月19日文学フリマ東京で、軍隊男色小説「炎と煙」シリーズを発行します

何がきっかけで調べ始めたのか、とんと忘れてしまったが1970年代の『薔薇族』を調べている中で、花田勇三という作家に出会った。


何せ読者からべた褒めされている。やややと思い、当該作品を国立国会図書館に複写で申し込んだ。タイトルは「素っ裸の鬼たち」。

これが私と軍隊ソドミア小説「炎と煙」シリーズとのファーストコンタクトである。


花田勇三氏の「炎と煙」シリーズは、1975年から雑誌『薔薇族』『さぶ』に連載された、戦時下、中国を舞台に活躍する鉄道機関兵・花田勇三の物語だ。

私鉄の鉄道機関助士であった花田は、当時鬼と噂され、皆に避けられていた鉄道機関士・大田誉と運命的に相勤(コンビ)となり、花田は大田の鉄道機関士としての腕前と武骨な性格に次第に惹かれ、大田もまたどこまでもしがみつき努力する花田に惹かれ、2人はやがて心を通わすようになる。
幸せな日々を、一枚の召集令状が壊す。大田が召集された。行先も、連絡先も告げないまま。どこまでも大田らしかった(「炎と煙」)。

その背を追って、花田もまた鉄道機関兵として応召される。
応召された花田は、そのまっすぐすぎる性格から初年兵いじめにあう。それを救うのが戦友の新見だ。彼ともまた心を通わし、義兄弟の契りを結ぶ。(「素っ裸の鬼たち」)

無事、試験に受かった花田は鉄道機関兵になり、実習を経て、中国へ赴任する。壮行会で、花田に好きだと告白した金村という同年兵がいた。彼は酔って、前後不覚に陥った花田に体を寄せ、生きていてくれと願う。(「赤とんぼと機関車」)

中国に渡った先でであった、国鉄出身の黒羽は、何かと花田に言いがかりをつける。実は彼は花田が気になって仕方なかった。せっかく分かり合えた2人だが――。(「炎の柩」)

これ以降も、一夜のいい漢との邂逅(「泥濘」)、好感度の高い見習士官が着任(「散華」)、運命の男、大田と再会(「螢」)と話は続く。
番外編「雁」「鯉」もあり、花田と彼を取り巻く魅力あふれる戦友たちの物語に、グッと心を掴まれる。

これらの物語群は、しかし本にならなかった。初期のゲイ小説はよほどのことがないと、書籍化までは至らなかったのかもしれない。結果、名作であるにもかかわらず、残らず、インターネットにも記録されず、掲載誌が国立国会図書館にあるだけとなった。


もったいない。こんなに心を震わす物語なのに、当時あんなに人の琴線に触れたのに、忘れ去られて。


しかし、花田勇三氏がどこでどうなったかわからない。今はさすがに生きていないだろう。

けれども著作権は生きていて、切れる頃には私もきっとこの世にはいない。


どうしたら、この作品を私が好きな作品を同じように愛してくれる人たちとシェアすることができるのか。


そこで自身で、本にすることにし、著作権の裁定制度を利用して、印税を国に納める形で、今回、文学フリマ東京で販売することにした。
見本誌を出せば、文学フリマ事務局を通じて、どこかの図書館に残るだろう。そして何より、手に取ってくれた方の手元で、物語は暫くの間生き続ける。
それが私の、「炎と煙」シリーズに対して表する敬意の形だ。

ぜひ、5月19日の文学フリマ東京で、手に取っていただければと思う。