記念すべき「ウホっ‼ イワジュンの男色文献セレクション」の第1回は、綿貫六助の「国境農村の二人」を紹介する。
突然だが、メガネ文庫は綿貫六助が好きだ。
日露戦争従軍時の、軍内の男色話をぶちまけてしまうのも好きだし、除隊後、文士になり、田舎の素朴な老人を愛する私小説を発表し、文壇に変態性欲と認識されているところも良い。
『男色文献書誌』も、もれなく綿貫の男色小説作品を網羅していて、「私の変態心理」「晩秋の懊悩」「惨めな人たち」「丘の上の家」「静かなる復讐」のタイトルが連なる中に、「二人の老人」という見慣れぬタイトルがあった。
掲載誌は、『槲の林』大正12年7月号とあったので、調査したところ山梨県立文学館に雑誌の所蔵があったが、7月号に綿貫の作品はなかった。代わりに6月号に作品があったが、タイトルが「二人の老人」ではなく「国境農村の二人」であった。
とりあえず、未知の綿貫の作品! ということで色めき立ち、「国境農村の二人」の複写を入手した。
「国境農村の二人」(『槲の林』大正12年6月号)
綿貫の『変態資料』に発表された男色四部作より前に書かれた作品。
売れない四十過ぎの文士が温泉逗留し、老爺と交流する話だが、興味深いのは主人公友朗の傍に綿貫を思わせる友人Wがいることだ。老爺につれなくされる友朗に比べ、老爺に好かれるWを描くことで、一人の老爺のつれなさ、そしてもう一人の老爺が輝くようにできている。
そう、この話には二人の老爺が出てくるのだ。別に老爺同士が特別仲が良い話ではない。常に友朗→老爺、というベクトルで話が進む。
一人目の老爺は、レニンに似た老爺である。酒や義太夫が好きで、友朗とWが逗留する宿にしょっちゅういて、温泉に入ったり、酒を飲んで友朗等に絡んだりする。
レ老(レニンに似た老爺だから友朗はそう名付けている)が温泉に入ると、友朗はついていって背中を流す、突然抱きしめてキスをする、温泉から上がった老爺に股引きなどを着させるなどかいがいしく世話をする。
しかし友朗の思いとは裏腹に、レ老は友朗に冷たい。
その冷たさに耐えかねて、友朗は泊っている宿の老爺に話しを聞いたドストイエフスキイのような老爺に会いに行く(老爺が多くてややこしい)。
このドストイエフスキイのような老爺(こちらが二人目の老爺である)は亀さんと呼ばれ、地域で親しまれ、大家族に囲まれている。自営の水車に米泥棒が入ったとき、盗まれた米と同じだけの麦を渡し、困ったら自分の所に来い、他人のものを盗ってはいけないと諭したという。その話を聞き、友朗は亀さんに興味を持ったのだった。
亀さんの家に招かれ、歓待を受け、亀さんとの会話やその容姿、品の良い発音、にっこりした笑顔に友朗はこれぞもとめていた老爺だと有頂天になる。
その夜は亀さん宅に留まり、亀さん家族に交じって雑魚寝する中、友朗はレ老の冷たさに傷つけられた魂が、彼をよく理解してくれたドストイエフスキイによって癒されたように思われた。
そして、ねながら、友朗は、レ老を亀さんみたいな人にしてくださいと祈り祈って、話が終わる。
綿貫の作品を読んでいていつも疑問に思うのだが、風呂場で突然キスされた老爺側の気持が全然描かれていないこと。うんうん唸ったのは拒絶なのか果たして…。
当時はそれもコミュニケーションの一部とみなされ普通だったのか、そういうことをするから冷たくあしらわれるのかどっちなのだろうか。答えの出ない問いがのどに詰まる。
なお、この作品は一度文字起こしし、「綿貫六助作品集」として世に出した。「ウホっ‼ イワジュンの男色文献セレクション」を冊子にまとめるときは再録してもいいかもしれない。