メガネの備忘録

文豪の人間関係にときめいたり、男色文化を調べたり、古典の美少年を探したりまったりワーク。あくまで素人が備忘録で運用してるブログなので、独断と偏見に満ちており、読んだ人と解釈などが異なると責任持てませんので、転載はご遠慮ください

森鴎外「青年」あらすじのようなもの

主人公・純一はY県から上京し、当時流行した文学にかぶれ、自身もそうした作家になりたいと考えていた。幸い実家が裕福で、生活には困っていなかったが、作家になりたいと言いながら書くのは日記ぐらいで、後は友人に誘われ、サロンに行ったり、そこで出会った大村という医大生と散歩したり、フランス文学を読んだり、といった日々を過ごす。
純一は下宿先の大家の知り合いの娘・お雪や劇場で出会った同郷の未亡人、芸者などの女性とかかわるようになる。
この記事では、男色の観点から作品を読むので、女性とどうなったかは割愛する(別にどうもならないが)。
前述の医大生・大村は今までは年上のものとばかり絡んでいたが、純一と出会ってからは何かと純一を構い、純一と談話を交わし、いろんな場所へ出かけるようになる。

純一への同性愛を自覚するシーン

 

純一の笑顔を見るたびに、なんというかわいい目つきをする男だろうと、大村は思う。それと同時に、この時ふと同性の愛ということが頭に浮んだ。人の心には底の知れない暗黒の堺がある。 ふだん一段自分より上のものにばかり交わるのを喜んでいる自分が、ふいとこの青年にあってから、よその交わりをうとんじて、ここへばかり来る。 ふだん講釈めいた談話をもっともきらって、そういう談話の聞き手を求めることはいさぎよしとしない自分が、この青年のためには饒舌して忌むことを知らない。自分は homosexuel [同性愛的〕ではないつもりだが、尋常の人間にも、心のどこかにそんな萌芽が潜んでいるのではあるまいかということが、ちょっと頭に浮んだ。

では純一にぞっこんになっている節が記述されている。
純一も大村を憎からず思っているが、同じベクトルの気持ちではなさそうなので切ない片思いだと思われる。
なお、都甲幸治「森鴎外『青年』――鴎外と性の揺らぎ」『「街小説」読みくらべ』(立東舎 2020年)によれば、Y県は山口県で、大村のモデルは「船室の夜」で同性愛小説を書いた、木下杢太郎だそうである。深い。