こんにちは。メガネです。
丹尾安典先生の男色の景色を拝読しまして(なるみさんおすすめありがとうございます)
井伏鱒二が、友人青木南八とちょっと濃い友情を築いていたエピソードが記載されていました。
……私は下宿にゐて朝寝ばかりするやうになつてしまつた。このことを青木南八は唯一の悲しみとして、彼は登校前に私の下宿を必ず訪れ、まだ寝床の中にゐる私に、障子の外から声をかけた。
「おい、まだ寝てゐるか?」
その声は、まる二年間くり返されたので、今にあつてさへも私はこの声のやさしさを記憶してゐる。
(「青木南八」前掲 『男色の景色』p.43より)
2年間毎朝訊ねてきた友人というのは貴重ですね。仲のよさがうかがえます。
さて、「山椒魚」の元となる「幽閉」という短編は青木南八に読んでもらうために書いた作品とのこと。
となると、南八へあてたメッセージが隠れているのでは? とウキウキしながら読みました。
前置きが長くなりました。
「幽閉」について。
「山椒魚」の元となった短編で、食べ過ぎで岩屋に閉じ込められた山椒魚が主人公。食べ過ぎたことを後悔したり、自然の力で岩屋が壊れないかなと夢想したりしますが、一向に岩屋は壊れません。
ある日、卵を抱えたエビがやってきて、そのエビを食べるのが残酷だと思われ、エビのしたいようにさせます(エビはちなみに車エビです)。
エビは寝ているのか物思いにふけっているのか動きません。
あんまりにもあたりが静かなので、山椒魚はエビに語り掛けます。
――兄弟静かぢやないか?
エビは答えません。
眠りにおちようとする山椒魚の傍には、
今は最早彼にとつては懐かしい友達におもわれはじめた小さい肉片の小動物
がいます
最後に山椒魚は、こうつぶやきます。
――兄弟、明日の朝までそこにぢつとして居てくれ給へ。何だか寒いほど淋しいぢやないか?
という話で、皆様お気づきでしょうか。「山椒魚」でとても言い争うカエルが出てきません! しかもとても静かな作品です。
エビは卵を抱えているので、メスなんだろうな、と思いますが、「兄弟」と呼び掛けているので、若干ブロマンスの香りが…(私だけか)。
エビが肉片と表現されたり、小動物と書かれたりするのは、ご飯にみえたり友のようにみえたり山椒魚の心が揺れ動いてるからかなと。ふとそんな事を思いました。
岩屋に閉じ込められた山椒魚にエビという小さな同居人ができるのですが、二人に会話なく、淋しさを募らせる…。
朝起きて、エビが山椒魚に「おい、まだ寝てゐるか?」と言ってくれたら。そんな続きを夢想したくなる短編です。短いのですぐ読めます。
匂わせ系文学として読んでみるのはいかがでしょうか。