メガネの備忘録

文豪の人間関係にときめいたり、男色文化を調べたり、古典の美少年を探したりまったりワーク。あくまで素人が備忘録で運用してるブログなので、独断と偏見に満ちており、読んだ人と解釈などが異なると責任持てませんので、転載はご遠慮ください

軍隊ソドミアレコード第1回 カストリ雑誌の記録

軍隊における男色(ここでは軍隊ソドミアと呼んでいるので、以下では軍ソドとする)が本当にあったかどうかはわからない。

ただ、軍隊生活の中にソドミアがあったという、記録だけが、終戦後、カストリ雑誌などにぽつりぽつりと見受けることができる。
そのすべてを調べたわけではないが(研究者でもない一介の薄給会社員に当時のカストリ雑誌を全部集めることなど到底無理である)、運よく入手できた資料を紹介することを通じて、軍隊ソドミアレコードを書き残しておく。
第1回目のテーマは「カストリ雑誌の記録」。

 

■「そどみい譚」久松一兵(『猟奇』3号1947年1月刊行)
著者が、現代の男色を記述するために、まず、新聞記事に現れた男色を紹介するのだが、そのなかで軍隊内の痴情の縺れが記される。

いわく、一等卒兵が班長室で新聞を読んでいた軍曹の右腹を匕首で突き刺し、軍曹が卒倒するのを見届けてから、行方をくらませた。探すが見つからない。
犯人は入隊前から同性愛者で、被害者の軍曹に恋慕し、言い寄ったがはねつけられ、これを悲観して事に及んだ、と。

なかなかセンセーショナルな事件で、さらに新聞に掲載があったことに驚く。

 

■「軍服姿の男娼たち」平野斗史(『真相実話』第1巻第1号 1949年5月)
著者は平野となっているが、過去に「そどみい譚」というエッセイを書いたらソドミア達から手紙をもらうようになった、とあるので、前述の久松の変名ではないかと推察する。
以下に出てくる村井氏は平野に手紙を送り、かつ実際にあって聞き取りをされたようで、この頃の軍隊ソドミアの語り手は、ソドミア本人ではなく、それを見聞きしたエッセイストたちであることが興味深い。
さて、内容である。これは拙著の「季刊男色 軍隊ソドミア小説選」より引用する。
村井は中肉小肥り、女性のような肌を持っていた。もともとソドミアの気質を持っていたところ、上官に誘われソドミアの道へ入り、下士官ともソドミアの関係をつくっていた。
終戦後復員し妻帯するもソドミアが忘れられず、また会社勤めより男娼をするほうが稼ぎがいいことを知ると男娼となり、客を持つようになった。
なお、村井は筆者の暗示した解決方法によって、男娼の泥沼から足を洗い、普通の生活を送っているとのこと。

 

閑話休題『男娼の森』角達也(1949年4月)

戦後上野に住む男娼たちを有名にした(?)書である。悲喜こもごもある男娼・およしの怒涛の人生が描かれ実に興味深い書であるが、なぜ、復員兵だった吉田ことおよしが男娼になったか、を知る一文を引用する。

戦争の為に、軍隊内で、徴用工場で、防空壕内で非常に多数の男色愛好の習癖者が出来ていたのである。

復員兵が男娼となる素地としての軍隊生活がしれっと暗示されている。

 

■「二人の男に惚れられた男娼」赤坂慧『奇抜探求』1952年8月(秘本探宮悦楽号)
こちらも伝聞形式の話である。
ソドミアものというよりも警察からきいたなどと書いてあるので、ミステリ寄りにしたかった節がある。
復員して家に帰った息子が、応召からシベリア抑留まで一緒にいたが故郷をなくした妙に肌が白く女性めいた戦友を2人連れて帰る。
母は息子の帰りを喜び、戦友2人を家に下宿させ、2人は息子と同じ会社で働けるようになった。
しかしよなよな、男3人の部屋から女のような声がする。
母が息子の部屋を確認すると、白粉や紅をつけ、赤い襦袢姿の戦友とよろしくやっていた。2人が男娼だとわかるや、母は息子に嫁をあてがい、2人を息子から引き離してしまう。
面白くない2人は、母を殺し、そのまま出奔する。
興味深いのは、ソドミアのケがなかった息子が、男娼の二人にロックオンされ、塹壕で身を寄せ合ううちに女体を抱いている気になり、そのままソドミアに溺れ、シベリア抑留を乗り越えて続いていったあたりか。

 

■「特集・囚獄の記録 男色榮倉」松尾 亮(『風俗草紙』第1巻第5号』1953年8月)

松尾二等兵は加藤軍曹に呼び出され、何度か部屋に通ううちにソドミアの仲に。加藤の心に流されっぱなしの松尾だったが、ある日中隊長の巡察中、二人の関係が目撃されてしまう。
営内の風紀を乱したとして、松尾は3日間営倉行となった。
松尾が看房で「人間の暮らす処じゃない」と自分に云い聞かせていると、二つ離れた看房から松尾に「すまない」と許しを請う声が聞こえてきた。加藤もまた営倉行となっていたのだ。
軍がソドミアに寛容でもなかったことがわかる貴重な話である。

 

■「男色閑談」宮園三四郎(『風俗科学創刊号 第1巻第1号』1953年8月)
こちらも宮園氏が「せきじゆあるもんたあじゆ」という記事を書いたら、ソドミア達から手紙が来て、実際数人と会って話を聞いたというコラムである。
(この「せきじゆあるもんたあじゆ」がどこを調べてもわからないので、ご存じの方お教えください)
幼少の頃、男色を覚えた青年が、軍隊に応召され、隊きっての乱暴者と評判の伍長から殊の外愛された。
また、青年は見習士官となり、部下から二人のチゴさんを選び出し、2人を交互に可愛がり嫉妬させてはその快感を楽しんだとある。

 

■「男色遍歴」近藤恭(『風俗クラブ』第1巻第2号    1954年5月)
男色の遍歴を語ったもの。
戦地での第一の相手は、伍長で、何かにつけて可愛がられるが、伍長は転属になってしまう。第二の相手は、見習士官となった「私」の伝令で、故国に恋女房がいると知りながら、ソドミーの洗礼を与える。
第三の相手は、二等兵で、当番兵。これにもソドミーの洗礼を与え、2人をとっかえひっかえ愛でていたが、部隊の移動に伴い、2人もまた転属になってしまう。

 

 

以上、昭和20年代の記録とする。

探せばもっとあるだろうが、このあたりで紹介を止める。
なお、初期はエッセイストの伝聞が主だが、次第にソドミア達が自ら語り出し始めるのが興味深い。(「男色榮倉」や「男色遍歴」は手記である)現に、奇譚クラブや風俗奇譚では多くのソドミア達がその戦地での経験を手記として語り始める。

奇譚クラブに掲載がある軍隊ソドミアの記録は、著者が書くまでもなく、叶誠人氏が「軍隊と男色」にまとめているので、ここでは紹介しない。

 

 

次回、機会があれば、雑誌『風俗奇譚』に描かれた軍隊ソドミアを紹介できればと思う。

 

2023年12月25日(クリスマス)追記。

先に紹介した、「軍服姿の男娼たち」、「男色閑談」「男色遍歴」及び、怪奇雑誌第4巻第10号(1951年10月1日)の「男色部隊」、デカメロン昭和27年7月号「男色地獄にあえぐ百人の手記」、会員制ゲイ雑誌ADONIS掲載「煉獄」、風俗奇譚 昭和37年3月号「蘭次郎と私」がすべて同じ人の話だと気づきました。
主人公の村井氏、いろんなエッセイストにこの話したんだろうなぁ…。話としてラストまで行けたのは、「軍服姿の男娼たち」「男色遍歴」です。気になる方はどうぞ。