メガネの備忘録

文豪の人間関係にときめいたり、男色文化を調べたり、古典の美少年を探したりまったりワーク。あくまで素人が備忘録で運用してるブログなので、独断と偏見に満ちており、読んだ人と解釈などが異なると責任持てませんので、転載はご遠慮ください

近代文学BL小説がおもしろい「鮎と蜉蝣の時」「草の花」のご紹介

どうも、メガネです。
稚児の調査をあらかた終えたので、今は近代小説の中にBL(ゲイ)作品がないか探しているところです。
ツイッターなるみさんなどと知り合い(なるみさんは川端康成の「少年」についての考察が深く、興味深いブログ記事をたくさん書いておられます)、情報を交換して日々楽しく過ごしております。ありがとうございます。

で、意外と探すと近代文学にもBL(同性愛)テイストのものがあり、読んでいてもとてもエモい作品が多いので、おすすめです。
入手不可能な作品もありますが、意外と図書館などでするっと借りることができたりします。

岩村蓬「鮎と蜉蝣の時」

第二次世界大戦前夜、美少年の伊賀は最上という上級生の目に留まり、競技部に入る。そして最上に誘われ二人は兄弟分になる。
仲よくしていた二人だが(キス未満や肌の接触など)、最上が誰からか注意を受け、それ以降、最上の態度がよそよそしくなる。最上との仲が不明瞭なまま、競技部で力をつけていく伊賀。
ある日、伊賀は肺炎で寝込んでしまう。見舞いにやってきた最上は親密な態度で伊賀を布団に押し倒す。
最上の真意がわからぬまま、最上は卒業して金沢へ行く。時が過ぎ、金沢から帰省した最上を訪ねると、恋人の写真(最上によく似た女性の写真)を見せられ、結婚するのだと告げられる。
最上に裏切られたと傷つく伊賀。結核かもしれないこともあって自暴自棄になる。最上の後、伊賀と兄弟分になりたい粕谷が伊賀を励ます。結核は誤診だった。
第二次世界大戦も深まり、学校は軍国主義に染まり、競技部の仲間たちも次々出征していく。
戦後、伊賀は生きて日本に帰り、島という先輩に再会する。島は仲間の様子を伝えてくれた。生きたものもいたが、最上も粕谷も戦死していた。
島は、最上が特攻で死ぬ3日前、会話したという。『此の世に唯一人の弟として伊賀を愛し、それゆえに彼から自分を遠ざけねばならなかった』と伊賀について語っていたと。
伊賀は島と共に最上の家に行き、最上の姉に会う。最上の姉は、あの日最上が見せた写真そのままの人だった。
最上の姉は言う。
最上は伊賀を大事にしたかったが、目をつけられてよそよそしく振舞うしかなかったこと、恋人も嘘で、あれは自分(最上の姉)の写真だったこと、もし伊賀が金沢まで最上を追ってきてくれたなら全部話すつもりでいたこと、その時は一緒に立ち会ってくれと言われていたことを。
全てを知った伊賀は、最上の仏前で、腹を切るような顔をしていた、と島に言われる。
伊賀は心の中で答える。それは愛する人と、その人と生きた熱く、切なく、短かった透明な時を慕っての殉死の儀式だったと。そして自身の再生の儀式でもあったのだと。
現代の学園ものでも通じるのではないかという読みやすさと、戦争という悲しい現実が兄弟分を引き裂いた切なさを感じさせる作品。

 

福永武彦「草の花」

「私」はサナトリウムで汐見という患者と同室になり、交流する。どこか冷めたような汐見に惹かれるが、汐見は無理な手術を自ら望んで受け、死んでしまう。汐見の枕元から2冊の日記が出てきて、「私」はそれを読む。
汐見が18歳の時、藤木忍という少年を愛していた。しかし藤木は見返りを求めない愛すら拒み、数年後、19歳で夭折する。
24歳の時、藤木の妹の千枝子を愛するけれども、キリスト教を信仰していた彼女もまた汐見の愛に応えることなく、汐見は招集され、千枝子と別れる。
汐見の死を「私」は千枝子に手紙で知らせる。季節がいくつか過ぎた後、千枝子から返事が届く。実は彼女は、汐見を愛していたが、汐見が見ているのは自分ではなく死んだ兄だと気付いていて、愛に応えられなかった。汐見の愛を彼女は、夢見る愛で、現実的ではなかったという。