メガネの備忘録

文豪の人間関係にときめいたり、男色文化を調べたり、古典の美少年を探したりまったりワーク。あくまで素人が備忘録で運用してるブログなので、独断と偏見に満ちており、読んだ人と解釈などが異なると責任持てませんので、転載はご遠慮ください

「給仕の室: 日本近代プレBL短篇選」の未読作品の中から選ぶベスト3

男同士の恋か愛か執着か妄念か。それとも稚い心の萌芽か。
BLという言葉が生まれる以前の、やおいや耽美JUNEよりもっと古く、それでいて男色や衆道という言葉では覆い切れない男同士の関係を描いた明治大正昭和初期のそれらの作品群「給仕の室: 日本近代プレBL短篇選」。

と、ツイッターでつぶやいて、はてこの後をどうしようかと止まってしまったわけですが、みなさまお月見の晩、お団子食べつつ健やかにお過ごしでしょうか。

 

「給仕の室: 日本近代プレBL短篇選」が出てしばらくたちますが、ツイッターで入手しましたという声が定期的につぶやかれていたり、私の大好きな綿貫六助氏に悶えている方がいたり、いや、この本、出た価値あるなぁと改めて実感しております。

で、このブログ内で紹介した作品を改めて紹介するのも何なので、この本から私が得た萌え作品について、3つ紹介していこうと思います。

はい、突然始まりますよー

 

室生犀星「美小童」

稚児について調べていた時期もあるので、室生犀星の、しかも稚児もの! かつ古今著聞集の「仁和寺の童千手参川が事」をある意味翻刻した作品ということで、大変おいしくいただきました。
寵愛を失った稚児が寵愛を取り戻す話ですが、その稚児(千手)は別の稚児(参河)に心奪われ、かつその稚児に向けられていた寵愛を奪ってしまう。そして千手はしるのです。心が求めるのは参河だったと。かつての栄華も美貌も投げ出して稚児が稚児を追い求める。それを室生犀星の耽美かつ読みやすい文章で読める至福!

収録いただき誠にありがとうございます!

 

田中貢太郎「ある神主の話」

ほのぼの妖怪系ストーリー。勘作が出会った水の妖怪は人間を襲って人間になりたいと願うが、勘作がことごとく阻止。阻止されることにいじける水の妖怪ですが、勘作と親交を深め、酒を飲みかわす仲(どうやら勘作の傍にいたくて人間になりたがってるんですよね。かわいい)に。3年が過ぎ、水の妖怪の神格が上がってとうとう神様に(結果的に悪いことをしなくなったため)。神様になったからにはそれを祭る神主がいると、勘作を神主に指名し、結果的に勘作は神主になる。という話。
水の妖怪を2025年の大阪万博のキャラクターミャクミャクさんで再生してたらすごいほのぼのしてしまいました。

 

山本周五郎「泥棒と若殿」

家督争いのため、領主の次男(若殿)がうらさびれた館に蟄居させられる。家来が一人減り二人減り、誰もいなくなり、食糧が尽き、3日も食べずに飢え死ぬかという時、間抜けな泥棒が盗みに入る。盗むものがないどころか、若殿が飢え死にしかかっていることを知り、身銭で若殿にご飯を食べさせる泥棒。泥棒はそのまま居つき、外で働いて金を稼ぎ、若殿を養うことを喜びとしていた。一方若殿も、泥棒の身の上話を聞き、一緒に暮らすうちに、市井の一般人になりたいと願う。
しかし、それはかなわぬ望みだった。

領主が死に、若殿が次の城主になる事が決まった。はじめは拒絶するも、庶民には庶民の領主には領主の責任があると説き伏せられ、城に戻る決意をする。城に戻る前の晩、若殿は泥棒にはじめて料理を作ってふるまう。別れの膳だった。

夜、一人しずかに家を出る若殿の背に、泥棒の俺を置いていくのかという切なる声がとどく。しかし若殿は振り返らなかった。

 

個人的に「泥棒と若殿」のラストシーンで号泣しまして(電車の中で)。この話が一番最後という編集の妙に、舌を巻きました。

いや、いろいろやっばいです。
明治大正昭和にこんなにエモーい小説群があったなんて! となります(匂わせ系といいうんですね)。

最近のBLの特殊設定に頭が追い付かなくなってきていた中で、男が男に惚れたり心を寄せたり加虐と愛を誤解してたりとまぁいろいろなんですが、冒頭にも書きましたけど、BL以前の日本語のどんな言葉でもその「関係性」を表現しつくせない中で、描かれた物語群がこうして、賛否はあるでしょうが、プレBLという言葉でまとめられ、出版されたことの意味を考えると深いなーと思う次第です。