メガネの備忘録

文豪の人間関係にときめいたり、男色文化を調べたり、古典の美少年を探したりまったりワーク。あくまで素人が備忘録で運用してるブログなので、独断と偏見に満ちており、読んだ人と解釈などが異なると責任持てませんので、転載はご遠慮ください

私の愛が相手を殺す? サディスティックな近代BL 日下諗「給仕の室」

こんにちは。メガネです。
以前、芥川龍之介のSODOMYの発達(仮)を紹介しましたが、情報源の清家雪子先生の漫画『月に吠えたンねえ1巻』にはほかの近代文豪ブロマンスも紹介されていてですね、そのうちの一つが日下諗「給仕の室」です。 

 あまり聞きなれない作家ですが、『白樺』の初期に作品を残し、間もなく消えていった方です。

「給仕の室」はサディスティックな同性愛作品で、
主人公は、同じ職場の鈍太(あだ名、本名は鈴木)のことを仲間と一緒にいじめるくせに、二人きりになると鈍太にすり寄り、頬に接吻したり、宿直の日に同じベッドで肌を密着させて寝たり、親密な風になりながら、同じ風呂に入って、またいじめたりします。

主人公がどれだけ鈍太を想っているかというと、

「鈍太、己れがこんなに、虐待(いじ)めるのは、何も御前が憎らしくてするのじゃないんだよ」
「鈍太、お前は己が好きか」
「苛めなければ好きかい」
という言葉をホイホイ相手にかけるぐらい好きです(苛めに許しを乞うているようにも見えますね)。

主人公視点なので、鈍太が主人公をどう思っているかの本心はわかりかねますが、
鈍太は拒むときは拒むけれども、流れに身を任せることのほうが多いです。
なので、風呂に入り続けるのを拒みながら、主人公に引き留められて、風呂に入り続け、とうとう気を失います。

風呂場で、鈍太を失神させた主人公は
鈍太に対する自分の感情がどんどん進んでいったら、しまいには本当に鈍太を殺してしまうかもしれない、という恐怖を感じて、話が終わります。

主人公の懊悩をはらんだサディスティックな同性愛。
話は途中で終わりますが、主人公と鈍太の関係を最後まで描かれていたなら、鈍太は主人公に殺されていたかもしれないと思わせるほどの、緊迫した愛がありました。

 

なお、作品は、『明治文學全集76 初期白樺派文學集/筑摩書房』に収録されています
国立国会図書館などで複写も可能です。

明治初期に描かれた、サディスティックな近代BLに触れてみてはいかがでしょうか。

 

 

1976年3月号 さぶ 林月光 月光・仮面劇場「双魚」

こんにちは。
林月光氏を追い求めすぎて雑誌さぶにまで手を出し始めたメガネです。
目標はネットに落ちていた、「今昔男色寺」の元ネタにたどり着くまでですが、
並行して、林月光氏が読者投稿から起こした「月光・仮面劇場」の収集も行っていこうと思います。

というわけで、今回入手したのが、1976年3月号の雑誌さぶです。
「月光・仮面劇場」は「双魚」というお話。
芸能プロダクションのスターと一夜を共にした美青年(美人局に引っかかったよう)が
実は日舞界の若様で、示談金30万円の代わりに、プロダクションの社長たち(男)が主催するパーティーで彼に舞わせようと計画。
パーティーでの余興は大成功で、お客はみんな美青年の世話役になりたいと言い出したとか。美青年は示談金はこれでチャラだといいます。
プロダクションの社長が美青年と一夜を共にすると、翌日美青年そっくりの若者が現れます。
実は美青年は双子で、最初に捕まったのが弟、余興で舞ったのが男相手百戦錬磨の兄で、二人は途中で入れ替わっていたのです。
兄の仕事を管理している弟は、兄がパーティーに出た費用を60万円だと言ってきました。
ミイラ取りがミイラになった、そんなお話です。

 

 

この文字をクリックして、画像を見る

林月光 月光・仮面劇場

林月光 月光・仮面劇場

林月光 月光・仮面劇場

林月光 月光・仮面劇場

 

 

林月光関係収集

林月光こと石原豪人氏を知ったのは数年前で、多分『新装版 昭和美少年手帖/河出書房新社』を読んだことからだったと思う。

それからネットでタコシェさんが出していた林月光秘宝館を必死に探したり(高騰していたがある日まんだらけで購入できた)、ヴァニラ画廊さんの2019年と2020年の展示に行けなくて指をくわえて見ていたり。
次の展覧会があったら行くぞと思ったら島根県で、さすがに行けなかった(空港からタクシー1時間はちょっと…)。


そうこうする間に、近代文学などに潜り、男色文化を調べ始めて、石原豪人熱は冷めるだろうと思っていたら、栗本薫先生のJUNEの挿絵をしていたので(なぜか持っていた栗本薫のJUNE全集が今頃役立つとは思いませんでした)、再び出会うことになり、画像検索していたら「今昔男色寺」というカラーイラストが出てきたが詳細がわからない。この詳細、知りたいなとスイッチが入った。

また、偶然検索で見つけた(自分でもよく見つけたと思う)SMペディアに林月光氏が掲載されており、林氏が読者投稿をもとに、雑誌さぶに掲載していた「林月光天狗劇場」を垣間見て、あー、これ、いろいろ調べたら面白そうなやつ。と手を出そうか思案し始めた。
ちなみにメガネさんの家は厳格で、ガッチガチの倫理観があり、BLを読むことはご法度だった(隠れて読んでいたが、最後は黙認されていたのかもしれない)。
なので、ハードコアBLはまー、ファンタジーだからと許容していたけれど、雑誌さぶはガチである。ガチの、男と男の抒情詩なのである。
(近代詩壇といいなんで、この国は抒情で物を語りたがるのか)

ところで、JUNEでは石原豪人と名乗っているけれど、ガチのさぶとかSM雑誌の方ではペンネームの「林月光」(ちなみにネーミングの由来はあまりきれいなものではない)名乗っていたというのが、奥行き深いですね。

というわけで、特に今追いかけるものもなく、ちょうどよく目の前に(私のまな板の上に)林月光氏がいる。
調べろという神の天啓なのかもしれない。

(山も落ちも意味もなく終わる)

僧侶と稚児との男色を主題とする稚児物語の代表作『秋夜長物語』 感想

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(メトロポリタン美術館より)

ストレス過多で情報量の多い本が読めないのですが、お伽草子に収録の「秋夜長物語」はスルスルと読めたので、その感想などを。

 

 

お伽草子 (ちくま文庫)

お伽草子 (ちくま文庫)

  • メディア: 文庫
 

 

【あらすじ】
西山の瞻西上人、もとは比叡山東塔、勧学院の律師桂海が若いころ、三井寺の稚児梅若と恋に落ちます。
想いを遂げた後、すれ違う二人に業を煮やした梅若が、桂海に会いに行こうとする途中、天狗にさらわれます。
寺から梅若が消えたことを発端に、梅若の実家は焼き討ち、三井寺比叡山が戦争状態に。
竜の導きによって、救い出される梅若ですが、実家も三井寺も焼失してしまったのを見て、絶望して入水します。
その後三井寺に神様が現れ、梅若は桂海の信心を深くするために現れた仏の化身だったと告げます。
梅若の死を受けて桂海は悟りを深くし、名を瞻西と改めて、東山雲居寺を建立してそこに住みました。

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(メトロポリタン美術館より)

 

【感想】
この作品は、僧侶と稚児との男色を主題とする稚児物語の代表作。男色本の初めとも呼ばれているそうです(ウィキペディアより

桜の花にたとえられ、紅葉のように散っていく、こんな美しい描写のある稚児に出会えるなんて。と、ときめきマックス!
だからでしょうか…説話にしたかったのか、梅若が実は桂海を発心させるために現れた仏の化身だったというくだりが何とも悲しく…。
僧侶と稚児のラブストーリー(悲恋)、で読みたかったなーと、思いました。
(説話としては、恋人の死を乗り越えて立派な上人になったというオチがいいんでしょうけれども)
何はともあれ、二人の心が通じるまでのすれ違いや、通じ合ってからもなかなか会えなくてじりじりしたり、あっという間に読める名作です。

なお、絵巻がネット公開されているので、麗しい稚児の絵が拝めます(Googleさん、メトロポリタン美術館さんありがとうございます)

artsandculture.google.com

 

2022年10月10日追記

↓で読めます

religionslove.hatenablog.com

芥川龍之介のボーイズラブ(?)作品 SODOMYの発達(仮)について

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近代文学にひっそり潜む男色。

先日読んだ、清家雪子先生の漫画『月に吠えたンねえ(1)』のなかで、近代文芸の男色文化の説明があり、その中で紹介されていたのが、芥川龍之介の『SODOMYの発達(仮)』です。


かなり直球な作品で、性的行為や身体描写がローマ字。解読するとすごく赤面します。私はいったい何を読ませられているのだ…。
この作品は、自分自身の事実に多少の粉飾を加えたもの、とあるので、根源は芥川の実体験…! 突如色めき立ってきましたよ!

それでは、SODOMYの発達(仮)を岩波書店出版の全集23巻収録分よりご紹介します。

(ちなみにSODOMYとは男色のこと、言葉の起源は聖書のソドムとゴモラの町からです)
ボーイズラブというか、性行為に嫌悪感がある方は今のうちに回れ右してください。

LOVEの発生

主人公、清が11歳の時、2歳年上の木村と友達になり親密になるうち、木村が手を握ってきたり首をなでたりしてきます。
木村は「君 僕は君にLOVEしちやつた君はLOVEつて事をしつているかい え」と告白、性行為を求めてきます(最後まではしていない)。

性の目覚め

清が中学1年の時、二級上の勝田と親しくなります。

ある日ある時二人で出かけたときに勝田が「OKAMAかせよ」と迫ってきます。押し問答の末に勝田と一線を越える清。回を重ねるうち、とうとう清は勝田のCHIGOになってしまいます。
(なおこのくだりはローマ字が多く、読んでいて赤面します。はい)


弟分から兄分へ

清が中学3年生の時、1級下の小泉という美少年を相手に欲望を満たそうとし、近づきます。
家に招き、二人きりで風呂に入り、小泉に「I LOVE YOU」とささやき、「僕のCHIGOさんになり給え」と迫ります。

最初は嫌がる小泉ですが、最終的に二人は男色の関係へ。

 

男色から女色へ

4年生から5年生になるとき、清は悪少年になっていて、グループをつくって複数人がかりで何人もの美少年を辱めるように。
ある時南という美少年を手籠めにしようとしているところに、南の姉が乱入。清は南の姉に手を出します。この時は未遂ですが、後日、縁日で南の姉と再会した清は彼女に付きまとい、露地の一つに入ったときに彼女をとらえ、手籠めにします。

かなりマイルドに書きましたが、あらすじはこんな感じです。
書いていてとても恥ずかしかった…。

この作品の興味深いところは、弟分(BLでいうところの受け)から始まり、兄分(同攻め)となり、最後は女色で終わる過程をなぞっているところでしょうか。
男色文化は、一定の期間が過ぎるとその役割を卒業する側面があり、若衆(BLでいうところの受け)は、元服したら若衆を辞めますし、念者もある程度すれば、普通に女性と結婚するんですね(結婚後も、男色・女色を維持し続ける場合もある)。
この作品でも、主人公・清は、年齢とともに男色の中での役割が変わってきていて、何かしらの通過儀礼のように、男色を経験した、といってもいいような気がします(あくまで推論ですが)。
今まで芥川龍之介といえば、羅城門・蜘蛛の糸のイメージでしたが、だいぶん見方が変わりました。

 

参考、引用文献は下記です。

 

 

 

芥川龍之介全集〈第23巻〉日録・講演メモ他

芥川龍之介全集〈第23巻〉日録・講演メモ他

 

 

 

 

田島昭宇の画業35周年記念作品集「Baby Baby」4月発売!

こんにちは、メガネです。

思春期は、大塚英志×田島昭宇にやられた世代(?)なので、
この度出る
田島昭宇先生の画業35周年記念作品集「Baby Baby」の発売がとても楽しみ!

 

 

収録作品は、「場所」「とどめをハデにくれ!!」「Baby Baby(全3話)」「7月4日ハレ。」「SUZUGAMORI」「プラネタリウムの天使」だそうで、
プラネタリウムの天使は本に収録してくれと出版社にお便り送ったりしていたので、(でも出してくれた出版社は小学館さまだという不思議)
普通にうれしいです。ありがとうございます。

 

4月まで生き延びるぞー。

 

お能に出てくる美少年を知るシリーズ第10回「烏帽子折」のご紹介

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若衆研の、能楽師長山桂三氏を招いて行われた「花篝(はなかがり)の夜会」に参加しました。
いやー、オンラインリモートの講座で、能の幽玄の世界へ誘われるとは。すごい時代が来たものです。
さて、その会の中で、長山氏の息子さんの凛三氏が舞った「烏帽子折」という作品を見せていただいたのですが、なんと牛若丸の物語! というわけで、お能に出てくる美少年を知るシリーズ第10回は「烏帽子折」の紹介です。


あらすじ

吉次が、商売のために東へ向かおうとしているときに、鞍馬寺を飛び出した牛若丸(後の義経)が現れ、一緒に連れて行ってほしいと頼みます。
二人は近江鏡の宿(滋賀県竜王町鏡)に到着します。
宿で、牛若丸は追手が来たことを知り、稚児姿ではすぐ見つかり捕らえられることから、元服して髪を切り、烏帽子をかぶることを思いつきます。
烏帽子屋を訪れた牛若丸は、左に折れた烏帽子を所望。それは源氏を表す烏帽子でした。
烏帽子の代金に牛若丸は持っていた刀を差し出します。その刀を見た烏帽子屋の妻は、刀を見て涙します。
というのもこの妻は、源義朝(牛若丸の父)に仕えた鎌田正清の妹であり、その刀は自分が使者として牛若丸が生まれたときに渡したものだったからです。
お互い御素性を知り、再会を果たした二人ですが、夜明けとともに、牛若丸は奥州へと旅立ちます。

牛若丸一行が赤坂宿についたことを聞きつけて、悪党熊坂長範たちが夜討を計画しているという話が牛若丸の耳に入ります。吉次が宿を発とうとしますが、牛若丸は逆に自分が斬り伏せるといって、宿を発たずに、夜襲に備えます。
夜襲に会う、牛若丸。バッサバッサと手下を切り倒し、悪党熊坂長範をもやっつけます。

 

ポイント

長山桂三氏いわく、「烏帽子折」は子方の卒業作品ともいわれるそう。
作中でも、稚児姿から元服姿に変わるので、確かに卒業を意識しますね。

見せ場の悪党熊坂長範たちと牛若丸の切った張ったの殺陣の様式美は
素晴らしいとしか言いようがありません。
子方のデビュー(鞍馬天狗で子方デビューする方も多いとか)にも
卒業(この烏帽子折ですね)にもかかわってくる、牛若丸の物語。
能と牛若丸の関係性についても、想いを馳せたいなぁと思いました。

youtu.be


なお、下記のサイトを記事の参考・引用に、使わせていただきました
ありがとうございます。
【烏帽子折】
http://nohgaku.s27.xrea.com/tokushu/eboshiori-1.htm